お昼ごはん。
昼間っからピザ?なんて、イタリア人も今は言わないかもしれません。
イタリアでは、私の若い頃はピザはまだまだ夜の食べものでした。
観光客が昼間に食べたがるので、観光客向けの地元の人はあまり行かないようなレストランと、ファストフード的な量り売りのピザ屋はお昼も店を開けていました。
夜はほとんどフラフラしなかったので、お昼間のピザしか味わったことがありません。
地元で人気のお店はきっと夜だけ営業のはずです。
観光客用レストランは観光客向けの味で、日本にあるようなこってりしたアメリカンピザみたいでした。
量り売りのピザ屋はイタリアンピザで、シンプルであっさりしていて、とても美味しかった記憶です。
長方形の大きな生地のまま焼いて切り分けて、量ってくれました。
私が行ったお店は新しい方式らしく、座っても席料を取られない珍しいお店でした。
もう云十年も前のことで、お店の場所は忘れてしまいましたが、味は忘れません。
私のピザの味は未だにあのお店の味が手本です。
具材は至ってシンプル。
具沢山にしない、特別に何かをのせない、素材の味をそのままいただくピザ。
やはり……ブロッコリーが余分だったかしら?半分をブロッコリーだけのピザににすればよかったです。そのほうがしっくりきます。
具ののせ過ぎには要注意。
あっさりめのピザを食べると、やはり懐かしくなります。
乾燥した少し埃っぽい冬の街中の空気。足下の石畳の感触。
朝のラッシュ時のクラクションと喧騒。広場の鳩の鳴き声と羽ばたき。
鐘の音。市場の賑わい。避けて通るべきなフラフラ歩く観光客の集団。
静かな美術館の中に響く足音と、ちょっと迷惑なアジア方面の団体観光客。
図書館の埃っぽさと虫よけ材にまみれた虫食いだらけのページの感触。
当時のイタリアは私にとって、日本とは比べ物にならないほど居心地がよく、肌に馴染む所でした。
成長より退化を感じることが断然多い年齢になり、ここは私にとって居心地の悪かった日本です。
が、今も、そしてこれからも、あの居心地の良さのある生活を求め続け、その心のありようを目指している気がします。